科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究 H23 ~ H25

挑戦的萌芽研究 H23~H25     科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)





課題番号:23650335  研究課題名:「運動学習によって脳内ネットワークはいかに変化するか 
2011年度:2730千円 (直接経費:2100千円, 間接経費:630千円)
2012年度:520千円 (直接経費:400千円, 間接経費:120千円)
2013年度:650千円 (直接経費:500千円, 間接経費:150千円)

(1)研究の背景
 ヒトは日々の反復トレーニングによって目的とする運動をより素早く,より正確に行なうことが出来るようになります.そして,その過程に伴い脳活動は変化しています.たとえば脳梗塞患者で麻痺側のトレーニングにより,当初同側の脳活動が優位であったものが,トレーニング後は対側の脳活動が優位になったという報告や(James et al. 2002 Brain),3ヶ月のジャグリングによって灰白質が増大したり(Draganski et al. 2004 Nature),複雑なvisuo-motor skillのトレーニングによって,白質に変化が見られた(Scholz et al. 2009 Nature Neurosci)という報告がなされ,トレーニングによる脳の可塑的な変化が機能的側面や解剖学的側面において多数観察されています.
 研究代表者は,近年世界的に使用頻度が増大している経頭蓋磁気刺激(TMS)と脳波(EEG)の同時記録(TMS-EEG)に関して,短潜時成分から劇的に高精度で記録できる手法を開発・報告しました(Sekiguchi et al. 2011 Clin Neurophysiol, 図1参照).このTMS-EEGの手法は,脳神経ネットワークの機能的な反応性(reactivity)と結合性(connectivity)を評価することのできる新しい生理学的手法として期待されています.

(2)研究の目的
 本研究の目的は,この手法を用いることでトレーニングに伴う脳神経ネットワーク,とりわけ一次運動野とその他の脳部位の関係の変化を導出できるか否か検討することでした.

(3)期待される成果と意義・波及効果
 本研究でTMS-EEGの手法により,運動学習に伴う脳神経ネットワークの変化が検出できることが明らかとなれば,MRIなどの大型機器を使用することなく,脳の機能的・可塑的変化を検出することができます.また,ターゲット脳部位と関連のある他の脳部位の関係を明らかにでき,それが学習と共に変化していく過程を追うことが可能となります.

(4)成果報告

 成果の一部を以下の学会において発表.

第69回日本体力医学会大会,長崎,2014年9月19-21日.
「経頭蓋磁気刺激による誘発脳波の運動学習に伴う変化」
関口浩文1,竹内成生1,宮崎真2,山中健太郎3
上武大学1,山口大学時間学研究所2,昭和女子大学3

背景
 ヒトは日々の反復トレーニングによって,目的とする運動をより素早く,より正確に行なうことが出来るようになる.その過程に伴い,脳活動は変化している.

目的
 本研究の目的は,運動学習に伴う脳神経ネットワークの変化を経頭蓋磁気刺激(TMS)と脳波の同時記録による誘発脳波から明らかにすることであった.

方法
 被験者は健康な男女8名(22.6±3.8歳)で,非利き手の指タッピングによる系列運動学習(30秒×12set,set間に30秒のrest,系列は人差し指を1,中指を2,薬指を3,小指を4として1-2-4-3-1)を行った.すべての被験者は右利きだった.各rest時に5秒間隔でTMSを6回与え,1セッションで誘発脳波を計72回記録した.被験者は1週間の間に3回,指タッピングによる系列運動をトレーニングし,初回(1st)と1時間後(2nd),1週間後(3rd)の計3回誘発脳波を記録した.
 TMSに関しては,左手の第一背側骨間筋から運動誘発電位を記録するのに最適な場所と安静時閾値強度を決定し,その60%強度で刺激した.

結果
 N100,P200の振幅およびマッピングの時系列的変化にも顕著な差は観察されなかった.しかしながら,4-14Hzに関して算出した電極ごとの試行間における刺激後の位相同期度とその時間およびパワー増大とその時間のそれぞれとパフォーマンスに有意な相関のある電極は,1週間後前頭部に多く観察された.

結論
 得られた結果から,トレーニング前と1 週間後では一次運動野からの入力によって生じる誘発電位の位相・パワーの特性とパフォーマンスとの関連を示す脳部位が異なっていた.とりわけ, 1 週間後,前頭における θ 帯域の誘発電位の位相・パワー特性がパフォーマンスと関連性を持っている可能性が示唆された.


図1. 誘発脳波記録時の被験者頭部の例
TMS刺激部位(赤丸)と方向(赤矢印)に対して,電極リード線を再配置
することで,刺激アーチファクト弱できる(Sekiguchi et al. 2011).